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構造化瞳を持つ多重フォーカス距離画像センサの開発

画像認識・計測分野では,カメラは通常理想化されたピンホールカメラとして モデル化されるが,実際のレンズは有限の開口径を持つ.それにより撮影され た画像には,奥行きに関する情報がぼけとして現れ,画像の劣化要因として扱 われることが多かった.しかしこの現象を解析することによって,単眼により カメラから撮影対象までの3次元距離や対象の3次元形状を求めることが可能 であることが分っている.中でも,ピントあわせのための機械的動作を伴うこ となく,画像中のぼけ量の解析から距離を算出する方法は Depth from Defocus と呼ばれ多数の研究例がある.また,計測により得られた対象までの 距離を用いることにより,ぼけを含まない対象の像(完全合焦画像)を復元す ることも原理的には可能である.

しかし,高精度な距離計測と安定な完全合焦画像の復元はぼけの大きさに関す るトレードオフの関係にあり両立は困難とされてきた.なぜなら,ぼけ量の解 析により距離を高精度に求めるためには十分な大きさのぼけを発生させる必要 がある.しかし,通常ぼけ現象は空間周波数に対するローパスフィルタの働き を持つため,ぼけが大きくなるに従い画像の高周波成分に含まれる情報が失わ れ,完全合焦画像の復元が困難になる.また高周波情報の消失は,細かいテク スチャや複雑な対象に対して距離計測を困難とする要因であるとも考えられる.

以上の問題は,ぼけの形態を決定する開口(瞳)形状を単なる円形とすること により生じている.十分な光量を得るために開口面積を確保せざるを得ない状 況では,円形開口は最適な形状であると言えるが,Depth from Defocus にお いては十分なぼけ量を確保するために開口の広がりが必要となるだけで,必ず しも開口面積を大きくする必要はない.

そこで本研究では,前年度開発した多重フォーカスカメラ(図 15上段左)に符号化開口マスクを装着したセンサ(図 15上段右,下段)を製作し,この装置により得られる画像 から,安定かつ高精度に距離画像と完全合焦画像を同時に求める手法を開発し た.

本年度開発したセンサの特長を以下に示す.

  1. 画像センサとして多重フォーカスカメラを用いることにより,複数の画像間の 演算による原画像成分の除去が可能となる.これにより表面テクスチャの種類 や密度に依存しない解析が可能となった.
  2. テレセントリック光学系を利用することにより,ぼけ現 象が位置不変な畳み込み演算としてモデル化でき,解析の簡単化・高速化を図る ことが可能となる.
  3. これらと構造化された開口形状の3要素により,ぼけによる情 報損失を最低限に押え,高精度な距離計測と安定な完全合焦画像復元の両立が 可能となる.

実験により,ぼけを含んだ画像に含まれる距離情報と,ぼけのない原画像に関 する情報をほぼ完全に分離し取り出すことが可能であることを実証した.図 16 に復元された完全合焦画像(図左)と対象物体の 形状(図右)を示す(詳細は,本報告書gifを参照).

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Figure 16: 復元された完全合焦画像と対象の形状