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分散協調視覚研究の目的

一般に知能システムは、知覚・推論・行動の3つの基本機能を持つと考えられ る(図1)が、従来の人工知能は記号処理に基づいた推論が中心となっていた。 これに対し最近では、知覚、行動を介した外的世界との相互作用を基本 とした知能システムの実現に大きな関心が寄せられている。こうした動きは、 記号処理的計算理論に基づいた従来の情報処理から、sensing&actionに 基づく相互作用やコミュニケーションを基本とした新たな情報処理への展開 を目指したものと考えられ、情報処理システムのヒューマン・インターフェイ スの向上という観点からも重要なものであり、重点的な研究が望まれている。

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Figure 1: 知能システムの構成

一方、21世紀における社会は、政治、経済、文化、教育、娯楽などあらゆる 個人的、社会的活動の分野においてマルチメディア情報処理システムがその活 動基盤を支えるようになると言われている。しかし、インターネットに代表さ れる情報ネットワークシステム上に作られた「情報メディア社会」が急速に膨 張することにより、それと我々生身の人間が生活する「実世界」との乖離が生 じ、両者の狭間で様々な深刻な社会問題が生じる危険性を指摘する声もある。

我々は、視覚を通じた、情報システムと実世界との双方向実時間相互作用 によって、

  1. 実世界の多様な状況において柔軟かつ頑健に機能する知能システムの実現および、
  2. ネットワーク上に作られた情報メディア社会と実世界との有機的な結合
を図るための方式として、図2に示すような分散協調視覚システムを取 り上げ、そのためのハードウェア、ソフトウェアを研究することを目的として 本年度より5年間の計画でプロジェクトを開始した。

具体的には、有線・無線ネットワークで結ばれた多数の観測ステーション(多 自由度カメラ雲台を備えた実時間3次元画像・映像処理装置)や視覚機能を備 えた移動ロボットにより、動的に変化する世界の状況を多角的に観測し、

  1. 分散協調型状況理解:観測ステーション同士、 観測ステーションと移動ロボット、移動ロボット同士のコミュニケーション、 協調によって、動的に変化する実世界の多様な状況を実時間で把握する。
  2. 対話的実時間映像生成:理解の結果得られた状況記述やネッ トワークを介して得た情報を人間に分かりやすい多様な形態の映像情報として 実時間で対話的に表現・生成・編集する。
ことを目的としている。

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Figure 2: 分散協調視覚システム

こうした分散協調視覚システムを利用すれば、
・実時間広域監視・交通管制システム
など広域シーンを対象とした視覚認識システムのほか、
・対話型遠隔会議・講義システム
・対話型立体テレビシステム・知的テレビスタジオ
・商品・展示関心度モニタリングシステム
・手術、芸術、スポーツなど高度な身体技能の詳細な映
像記録の作成
さらには、
・移動ロボットや身体障害者の対話的誘導システム
・サッカーなど移動ロボットによるチームプレイの実現
が可能となる。

本研究プロジェクトでは、上記のような個別的応用システムの構築を目指すの ではなく、それらのプラットフォームとなる分散協調型実時間3次元視覚情報 処理機構を実現するための基盤技術、特に、ネットワーク接続されたマルチカ メラによる多角的映像撮影・処理手法、分散協調視覚システム内部およびシス テムと外的世界との協調的相互作用・コミュニケーション方式を重点的に研究 する。