Next: 視覚に基づくロボットの多種行動の獲得及び統合方式の開発
Up: 研究課題とアプローチの方法
Previous: 視野に重なりを持たない観測ステーション群による広域監視
本研究では、予め撮影・蓄積された映像を表示するだけでなく、利用者の
意思に基づき自由な視点から実世界中の対象の映像を取得し、それに関連した
付随情報をネットワークを介して柔軟に検索・生成・表示できる情報メディア
環境の構築を目的としている。言い換えると、本研究は、実世界と情報
メディア社会の統合化を実現するために分散協調視覚システムを利用するも
のと言え、観測ステーション間の協調によって注視対象となる物体映像を最適
に取得する方法および、その映像を利用者に効果的に提示する方法を開発する。
このような機能が要求される問題の具体例としては、遠隔講義や会議・ミーティ
ングなど、空間(場)を共有する複数の人間のグループがいくつかあり、それ
らのグループをネットワークで結び共同作業を実現することがある(図8)。
これらの問題では、臨場感を醸し出すためにいかに映像を撮影、表示するか、
テキストや資料、データといった様々な付加情報を映像といかに融合させて表
示するかが重要となる。
本研究では、上記のような問題における映像の撮影・生成法に焦点を当て、
以下の課題について研究を行う。
- 対象モデルを利用した不完全映像の完全化
予め決められた有限の観測環境の下で、利用者による自由な視点位置や視線方
向の選択を可能とするため、本研究では対象に関するモデルを知識として用意
し、観測ステーションからの映像情報が不完全な場合でもモデルを利用した映
像生成・合成により、利用者には対象の完全な映像や情報を提示し続けること
ができるシステムを構築する(図9)。
- 映像撮影資源の協調的割り当て方式の開発
多数の利用者が同じ場に関心を持ちその状況を見ようとする場合(図8)、同
一の場に属す複数の異なった対象をそれぞれ注視対象とした映像の獲得が必要
となる。この問題は、本質的に3.3.4で述べたものと同一であり、そのた
めの映像撮影資源の協調的割り当て方式の開発は本プロジェクトにおける中心
的課題となる。
- カメラ群の最適自動配置アルゴリズムの考案
TVスタジオや会議・講義室といった場では、場の幾何学的、光学的構造が予め
分かっており、そこで行われる行為、アクションには一定のシナリオがある。
本研究では、こうした場に関する知識と、撮影に使用するカメラの特性、台数
に関する情報を利用して、場において生じる様々な動的状況を最も効果的に撮
影するためのカメラ群の配置を自動決定するアルゴリズムの考案を目的として
いる。現在は、計算幾何学的アプローチに基づいた最適なAPSカメラの自動配
置アルゴリズムの開発を進めている。
- カメラワークの記述方式の考案
TVスタジオや映画撮影では、複数のカメラで撮られた映像を動的に切り替えた
り、編集したりすることによって、「見飽きない映像の生成」や「制作者から
のメッセージや意図の伝達」、さらには「芸術的価値の付与」がなされている。
本研究では、分散協調視覚システムを用いて、こうした付加価値を持った映像
を生成するための、カメラワーク記述方式の考案を目指している。現在は、研
究の第一歩として、ネットワークに接続された複数の首振りカメラを対話的に
制御し、効果的な映像獲得・生成を行う分散型ネットワークカメラシステムお
よび、一般のニュース、ドラマ映像で用いられているカメラワークを属性文法
に基づいて記述する研究を進めている。
Figure 8: 分散協調視覚システムを備えた講義室
Figure 9: 実写映像とモデル映像の合成による対象の表示