本プロジェクトで考えている分散協調視覚システムに対する最も基本的な要求 仕様として、「実世界で有効に機能すること」がある。これは、いわゆ る「積み木の世界」のような単純な規則によって記述できる世界や、雑音や歪 み、情報の誤りや欠落のない理想的な論理・数学世界を対象とするのではなく、 我々人間が暮している「実世界」そのものを対象として視覚情報処理の問題を 考えることを意味する。
実世界を対象とした視覚認識問題に対する基本的アプローチの仕方として、 プロジェクト・リーダである第1筆者は次のように考えている。
『従来の還元主義に基づく自然科学は、「もの」を構成する根源的要素の追求 を論理的、客観的に行うことを基本原理としており、従来のビジョン研究、 特にcomputational visionは、その考えに忠実に従ってきた。しかし、 Shannonの情報理論が送信者と受信者の間の通信によって情報を定義している ことからも明らかなように、情報処理、情報科学の問題は「もの」に関する研 究ではなく、「こと」に関する研究であると言え、「もの」を科学するための 方法が限界に突き当たるのは当然であると言える。
我々は、『「こと」は「もの」と「もの」との相互作用(interaction)
(従来の「関係」といった静的なつながりではなく、ダイナミックス
を伴った動的係わり合い。)と考えるのがまずは妥当な出発点であり、「こと」
の1つの様相として「統合」がある』と考え、数年前から「多角的情報
の統合」というスローガンのもとに、実世界で機能するビジョンシステムを
実現するための情報統合方式やアルゴリズムの研究を行ってきた。
その一方、最近では我々以外にも、より一般的な立場から情報統合を考えよう
とする動きや、マルチメディア情報処理におけるメディア統合、アクティブビ
ジョンやsubsumption architectureのように異なった機能を持つモジュールの
有機的結合を目指す機能統合、さらには多数のエージェントを集団あるいは社
会として統合することを目指すマルチエージェントシステムに関する研究も行
われており、この機会になんとかして「統合」を科学的基盤を持つ新たな情
報処理方式として確立したいと考えている。』
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分散協調視覚システムは、こうした考えに基づき、実世界において有効に機能 するために必要な基本特性として次の3つのものを取り上げ、以下に示すアプ ローチによってそれらの実現を目指している。