本研究では,道路上の複数車両の運動を解析するシステムを提案する.
一般に,道路上で複数の車両が近接した場合には,個々の車両を画像から切り 出すことは極めて困難である.また,道路を撮影した画像には,日照の変化や 木々の揺らぎなどによって,車両以外の道路領域を移動対象として検出してし まい易い.これらの問題点を解決するために,昨年度提案した「選択的注視」 に基づいて,システムの構築を行った.
選択的注視は,以下の2つの処理を交互に繰り返すことによって実現される.
しかし,この方法では道路上の車両の運動のようにレーン間の移動が起る場合 には,車両の動きを1次元的なオートマトンで表現することは困難である.ま た,個々の車両をNFA上で区別し,連続する時刻に観測された複数の車両を対 応付けることは,選択的注視の枠組みだけでは対処することができない.
本研究では,対象の動きの時間的変化を表す1次元的なオートマトンを,「車 両の時空間的な動きを表すトレリス状のオートマトン」に拡張し,さらに「車 両間の位置関係を表すオートマトン」を導入することにより,車両の時間的な 対応づけを行う方法を検討した(図2.13).
まず,トレリス状のオートマトンは,各レーンを車両が動く場合の1次元的な オートマトンを複数個用意しておき,これらを構成する状態のうち,車両の移 動が起こり得る状態間に状態遷移を挿入することによって構成される.このよ うにして構成されたオートマトンは,道路上での車両の移動パターンを複数表 しており,車両がレーンの移動をした際にも状態遷移を続けることができる.
このオートマトン内部の活性な状態は,道路上のある位置で画像の変化が起き たことを表しているだけであり,活性化された状態だけから車両の個数や対応 付けを行うことはできない.昨年度の研究では,活性化された状態に対象を表 す「色」を付けたトークンを割り当て,オートマトン上で色付きトークンを伝 搬させ,対象の個数を認識させる方法について検討を行った.しかし,これだ けでは,個々の対象を特定するための制約条件が緩く,対象の時間的対応づけ が正確に行えないことが起こり得ることが判明している.今年度の研究では, トレリス状のオートマトンに加え,さらに車両間の位置関係を表すオートマト ンを導入することにより,位置関係の変化として有り得ないケースを除外し, より精度の高い色付きトークンの伝搬を行うとともに,車両間の相対的な位置 関係の時間的トレースを得る方法を提案した.この方法では,車両の大きさ, 形状の情報を利用したトークンの伝搬も行っている.
実験では,図2.14に示すように,ほぼ真上から片側3車線を 通行する車両を約3分間撮影した動画像を対象として解析を行った.台数につ いては,図2.15に示すように約50台の車両数を正しく数え上 げることができている.途中,日照の経時的変化が起きており,車両以外の部 分でも背景画像からの入力画像の変化が大きくなっている.それにも関わらず, 精度の高い個数の認識が行えている理由は,1)選択的注視の特徴である注目領 域外部の画像の変化に影響されないこと,2)車両の相対的位置関係によるトー クン伝搬の制約を用いていること,3)車両の大きさと形状に関するヒューリス ティクスを用いて,トークンの再配置を行っていること,の効果によるものと 考えられる.
また,位置関係記述オートマトンの状態遷移から,図2.16に 示すように,車両間の位置関係についても時間的トレースを得ることができ, これを利用すると,追い越しや追い抜きなどを自動的に認識することができる ものと考えられる.