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ダイナミックメモリ:視覚・行動・通信の動的統合モデル

担当:松山 隆司(京都大学)

本プロジェクトでは,従来の人工知能研究で用いられてきた

知能 = 知識 + 推論
という図式に代り,外界・他者とのインタラクションに基づく知能のモ デル化,あるいは知覚,行動2.1,通信機能の統合による知能の創発という考え方, すなわち
知能 = 知覚 + 行動 + 通信
という図式を知能の基本モデルとして提案している.

昨年度は,この基本モデルを具体化するために,視覚,行動,通信機能を備え た自律システム(能動視覚エージェント,Active Vision Agent,略し てAVA)の機能モデルを設計し,視覚,行動,通信機能の間の相互関係につい て検討した(図2.2).

Figure 2.2: 能動視覚エージェントの機能モデル
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\psbox[width=0.8\textwidth]{figure/embodied-ava.eps}\end{center}\end{figure}

1998年度は,AVAを構成する視覚,行動,通信の3モジュール間の動的な 情報伝達・交換を実現するための機構としてダイナミックメモリという 考え方を提案し,プロトタイプシステムによってその実用的有効性を示した.

ダイナミックメモリは,それぞれ独自のダイナミックスに従って動作する非同 期なプロセス群を動的に結合するための共有メモリで,視覚,行動,通信の3 モジュールの動的統合が以下のようにして実現される(図2.3).

Figure 2.3: ダイナミックメモリを介した機能モジュール間の動的相互作用
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\psbox[width=\textwidth]{TM/dm-ident.eps} \end{center} \end{figure}

Figure 2.4: イベント駆動の非同期なモジュール間の相互作用
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\psbox[width=\textwidth]{TM/dynamic-vision-schedule.eps}\end{center}\end{figure}

1
固有の時間特性を持つ視覚,行動,通信機能モジュールは,互に独立・ 並行に動作できる並列プロセスとして実現する.すなわち,図 2.4に示すように,各機能モジュールのダイナミックス はそれぞれ独立した時間軸で規定され,イベント駆動の非同期な相互作用によっ てモジュール間の情報交換が行われる.
2
機能モジュール間の柔軟な動的相互作用を実現するため,並列プロセス 群に共有メモリを持たせ,プロセス間の情報交換はすべてこの共有メモリを介 して行う.
3
共有メモリはダイナミックメモリと呼ばれ,以下の特徴を持つ.
$\bullet$
メモリに記録される情報は,変数の過去から未来に渡る値の時間的変化 として記録される(図2.3).言い換えると,変数は時系列デー タを値として持つ.この考え方は,MackworthらのConstraint Netsでも用いられたものであるが,将来の予測値が記録 されることがダイナミックメモリでの大きな拡張点である.
$\bullet$
視覚,行動,通信プロセスは,それぞれの持つ情報をダイナミックメモ リに書込む.その際,観測・計算された変数値の記録のみならず,将来におけ る値の変化予測も併せて行われる(図2.3中のグラフの破線部分).
$\bullet$
ダイナミックメモリ中の変数間には,微分$\frac{dv}{dt}$,積分 $\int{}{}v(t)dt$のような時系列データに対する変換関数を定義することがで き,v(t)の値の書き込みと同時にその微分や積分値が自動的に計算・記録さ れるようにすることができる.
$\bullet$
視覚,行動,通信プロセスは,他のプロセスが記録した情報や変換関数 によって変換された情報をダイナミックメモリから読出す.ダイナミックメモ リからは,任意時刻における変数の値だけでなく,変数同士が指定された制約条 件を満す時刻を読み出すこともできる.



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