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研究の背景
- 柱長 計画研究代表者 松山 隆司 (京都大学 大学院情報学研究科)
- 計画研究代表者 入來 篤史 (東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
- 計画研究代表者 佐々木 正人 (東京大学 大学院情報学環)
- 計画研究代表者 國吉 康夫 (東京大学 大学院情報理工学系研究科)
人間の持つ重要な情報処理機能の1つとして知覚がある。わが国における言語、音声、画像を対象としたパターン情報処理研究は、1970年代から急速に発展し、着実な進歩を遂げてきた。この間、大学等における研究成果を基に企業での実用化が図られ、かな漢字変換、機械翻訳、音声認識、音声合成、郵便番号読み取り装置、指紋認識、CTなど現在の情報化社会を支える基盤技術として豊かな実りをもたらしている。
しかし、こうしたパターン情報処理技術には以下のような限界や問題がある。
- 従来のパターン情報処理技術は、言語、音声、画像といったメディアごとに独立して考えられたものが多く、人間の持つマルチモーダルな認識機能を実現するには、新たなメディア統合・認識技術が必要である。また、触覚や体勢感覚に訴える力学メディアについては、まだ十分な研究開発が行われていない。
- 従来のパターン認識技術は、カテゴリ識別を主な目的としたものがほとんどで、人間や動物のように行動を誘発・実行させるための知覚(知覚と行動の統合)、あるいは、他者とのコミュニケーションを円滑にするための知覚や行動、といった視点からの認識・行動機能の解明・技術開発が望まれる。
- 従来は機械を知的にするための認識機能といった観点から研究が行われてきたが、人間には、知覚を通じて、「美しい」、「心地好い」と感じる感性がある。機械がそうした感性を備えることにより、人間と機械が共生する新たな社会が 構築できると考えられる。
一方、神経生理学や心理学の観点から人間の情報処理機構を解明しようとする研究は、古くから行われてきたが、多くは非日常的な限定された状況でのモデル構築に留まっていた。しかし最近では、分子生物学などの基礎科学の急速な進歩および、陽電子放射断層法(PET: position emission tomography)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI: functional magnetic resonance imaging)、脳磁場計測法(MEG: magnetoencephalography)、(近赤外)光トポグラフィ(NearInfra-Red Topography)、などの非侵食計測・画像化技術が進歩し、多様な日常生活環境における脳の活動状態の詳細な観察が可能となってきた。
以上述べたような状況のもと、人間における複数知覚系の統合・協調メカニズムおよび、身体を介した知覚系と行動系との相互依存関係を神経生理学および心理学的に解明し、そこで得られた知見を基に日常生活環境において人間と共生できる機械(情報システム)を実現することは「人にやさしい」、「バリアフリーな」21世紀社会の構築に大きく寄与するものと考えられる。