平成14年度の研究成果のまとめと今後の展望
(1)柱の成果のまとめ
A03柱では,日常生活環境において「人間と共生する情報システム」を実現するための基礎研究として,以下の課題に焦点を当てて研究を行っている.
- 「ヒトを知る」:
知覚と行動の動的相互作用に焦点を当てた,神経生理学および心理学的観点からのヒト(動物としての人間)の情報処理機能の解明 - 「人を観る」:
日常生活環境における人間の行動や動作・仕種をマルチメディア情報として観測し,I の知見に基づいて人間の心理状態や意図,くせなどを理解するための言語・音声・画像・力学メディアを統合したマルチメディア情報認識法の開発 - 「人を魅する」:
I の知見に基づいて人を魅了する情報提示を実現するための,力学メディアも含めたマルチメディア情報の生成・提示法およびシステムの開発 - 「人と交わる」:
II 、III を踏まえた,身体およびマルチメディア情報を介したマルチモーダルなヒューマン ⇔ マシン・リアルタイム・インタラクションの実現法およびそれを利用した共生型情報システムの開発 - 「人と暮す」:
I に基づいた身体性の持つ情報学的意味の解明および,II 〜 IV を踏まえた,知覚・行動系を動的に統合した共生型ロボットシステムの実現
昨年のヒアリング以降得られた,特筆すべき研究成果としては,「人間と共生する情報システム」実現のための基礎的理論として「自律ダイナミクスを持つ情報システムによる動的イベントの表現・学習・認識・生成」に関する研究の進展がある.具体的には,・微分方程式系による連続状態変化とオートマトンなどの離散状態遷移との融合・統一的表現が可能な自律ダイナミクスを持つ情報システムのモデル化(課題 II 〜 V の基礎理論)
- 同システムによるマルチメディア時系列信号の認識システム(たとえば、リップリーディング)の実現(課題 II )
- 連続状態空間中におけるアトラクタへの引き込み現象を利用した滑らかなロボットの行動生成(課題 III )
- 身体を介した環境との相互作用に基づく感覚運動情報の構造化による行動学習(課題 IV、 V )の成果が得られた.
一方,課題 I についても,
- サルは道具をどう見なして扱っているのか?
- 物・環境はヒトの身体行為になにを与えているか?
- ヒトは他者をどう捉えているのか?
- ヒトが理解しやすい規則とはどのようなものか?
- コミュニケーションにおいてヒトはどのように息を合わせるのか?
といった課題に対する新たな知見が得られ,ヒトの情報処理機構に関する理解が着実に深まっている.
今後は,ヒトの情報処理機構の解明をより深めるとともに,そこで得られた知見に基づいて,先に述べた「自律ダイナミクスを持つ情報システム」のより詳細なモデル化および,動的イベントの記述・構造化・学習・生成機構の実現について研究を深く堀り下げ,最終年度にはこのモデルに基づいたデモンストレーション可能なシステムの構築を行う予定である.
また,昨年度行った国際sシンポジウムの成功を受け,今後は国内外から論文を公募し,より拡大した形で国際シンポジウムを開催し,人間と共生する情報システムの実現にむけた国際的なフォーラムを根づかせることを目指す.