平成13年度の研究成果のまとめと今後の展望
(4)研究構成
I. 「ヒトを知る」
- 「サルは道具をどのように扱っているのか?」:
道具を使った作業の行動学的解析,脳画像解析,脳神経生理学的解析(計画研究:入来班)
- 行動学的・運動学的解析:
事物間の関係認知,因果性,「量,数」の概念,結果の「予測」による選択的行動,それぞれの道具のもつ機能の「因果関係」,道具使用行為の「時系列」の理解,結果の「推測」プロセスをどのように発達させるかについて,ニホンザルを用いた行動学的観察を行い,運動の所要時間,軌跡などを経時的に追うことにより,「問題解決能力」,「推論能力」の発達を定量的に解析した.まず,手の届かないところに与えられた報酬を,T字型の道具操作により得ることができるようニホンザルに訓練し,種々の道具を提示した時に発現される運動パターンを,動画像解析装置を用いて定量化した結果,行為の結果を予測して推論的に行動を計画して遂行する能力があることが判った.
- 動的脳機能画像解析:
覚醒ニホンザルの道具操作中の局所脳血流をポジトロンCT (PET) により計測することで,学習に伴う脳内変化が,頭頂間溝周囲,運動前野,運動補足野,基底核,小脳で観察された.さらに,道具操作課題のみにとどまらず,上記(i)と同一の,理解・予測・計画・推論を必要とする各課題遂行中の脳内変化を経時的に観察し,前頭前野などの連合野に焦点をあて,特異的活動領域の特定を試みた.
- 神経生理・形態学的解析:
上記の機能画像解析により各課題遂行中に特異的に活動する脳内領域を絞り込んだ上,これまでの一連の研究から道具使用行動に関連することが判明している頭頂葉皮質との対応関係に焦点を当てて,各課題遂行中の特徴的思考過程や判断の発生過程とニューロン活動様式との相関を検討した.また,注目領域に神経標識物質を入れた実験を行い,各領域間の経結合の様式が上記高次機能学習前後で変化するか否かを調べた.
- 「ヒトは自分の体をどのように扱っているのか?」:
物身体を介した人と環境との動的相互関係の解明(計画研究:佐々木班)
頸髄損傷者を対象として,更衣動作の一つである靴下はき動作を6か月に渡り観察し,その動作の発達が,支持面に対して定位する全身の姿勢調整,脚位置と操作手の位置関係の調整,を維持しつつ行われる靴下の操作の3種の下位行為間の協調として記述できることを示した.この動作の発達が当初の原初的な下位行為間の混合から下位行為の分離と段階化そして洗練した下位行為の同時的協調という順で進むことが分かり,行為の発達が下位行為間の構造の推移として記述可能であるという見通しを得た.
- 「呼吸はヒトの発話・身体運動のペースを決めるメトロノームか?」:
発話・身振り・呼吸の協調メカニズムの解明(公募研究:古山班)
呼吸運動は発声の下位の運動系となっており,発話と身振りを使ったマルチモーダル・コミュニケーションの動的メカニズムを呼吸運動との関連で捉えることを試みた.その結果,1人の人間における場合および人との対話状況における場合のいずれにおいても,発話,身振り,呼吸における動的相互連関性,協調性を示唆する結果が得られた.今後は,「しっくりとした」,「ぎくしゃくした」コミュニケーションなどと呼吸運動との関係を解明することが望まれる.